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東京地方裁判所 平成10年(ワ)14283号 判決

原告 日本中央地所株式会社

右代表者代表取締役 竹内幸太郎

右訴訟代理人弁護士 五百田俊治

被告 株式会社イチケン

右代表者代表取締役 市川義雄

右訴訟代理人弁護士 中村護

同 永縄恭子

同 町田正男

右訴訟復代理人弁護士 大野壽三枝

同 山崎俊和

同 中村一郎

被告 社団法人全国宅地建物取引業保証協会

右代表者理事 河原将文

右訴訟代理人弁護士 深沢守

同 堀克巳

主文

一  被告株式会社イチケンは、原告に対し、金三三六万四四〇〇円及び内金三三二万八三五〇円に対する平成七年八月一四日から、内金三万六〇五〇円に対する平成一一年二月二五日からそれぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告社団法人全国宅地建物取引業保証協会は、原告に対し、原告の平成八年九月一〇日付け宅地建物取引業法六四条の八第二項による申出につき、申出に係る債権額金六〇〇万円のうち金三三六万四四〇〇円について認証せよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告株式会社イチケンは、原告に対し、金一〇五九万一六四〇円及び内金六〇〇万円に対する平成七年八月一四日から、内金一三二万四〇〇〇円に対する平成一〇年七月四日から、内金三二六万七六四〇円に対する平成一一年二月二五日からそれぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告社団法人全国宅地建物取引業保証協会は、原告に対し、原告の平成八年九月一〇日付け宅地建物取引業法六四条の八第二項による申出につき、申出に係る債権額金六〇〇万円について認証せよ。

第二事案の概要

本件は、原告が施主となって企画建設する土地付き分譲住宅について、原告との間で販売委託契約、建物建築請負契約などの契約を締結した被告株式会社イチケン(以下「被告イチケン」という。)が、右販売委託契約に従い原告に引き渡すべき売買代金を引き渡さず、その他債務不履行があるとして、被告イチケンに対し、右売買代金の引渡及び右各契約の債務不履行に基づく損害賠償を求め、被告社団法人全国宅地建物取引業保証協会(以下「被告協会」という。)に対し、宅地建物取引業法六四条の八第二項による申出について認証することを求めている事案である。

一  前提事実(証拠等を摘示するものを除き、当事者間に争いがない。)

1  (当事者)

原告は、不動産売買・賃貸・不動産管理、売買の仲介及び鑑定等を業とする会社である。

被告イチケンは、不動産売買、賃貸・管理及び仲介等を業とする会社である。

被告協会は、宅地建物取引業法に基づく営業保証金相当額の弁済業務、一般保証業務、手付金等保管事業その他の業務を行い、宅地建物取引業界の健全な発展と資質の向上及び消費者の保護を図る目的で設立された社団法人である。なお、被告イチケンは、被告協会の会員である。

2  (原告、被告イチケン及び訴外株式会社光建の契約関係)

(一) 原告と被告イチケンは、平成六年一二月一三日、原告が同被告に対し、東京都東久留米市南町三丁目一〇七一番地二六の宅地分譲に関し、開発許可申請、造成工事等の業務を委託する旨の業務委託契約を締結した(以下、右分譲地を「ウェルシータウン東久留米」といい、右契約を「本件業務委託契約」という。)。

本件業務委託契約において、被告イチケンの業務に対する報酬及び造成工事代金の額とその支払方法が次のとおり合意された(乙一)。

(1)  被告イチケンの業務に対する報酬及び造成工事代金

一九七五万円及び消費税五九万二五〇〇円

(2)  支払方法

<1> 契約締結時 内金二〇〇万円及び消費税六万円

<2> 都市計画法二九条許可後工事着工時 内金六一五万円及び消費税一八万四五〇〇円

<3> 同法二九条完了検査済取得時 残金一一六〇万円及び消費税三四万八〇〇〇円

そして、被告イチケンと訴外株式会社光建(以下「訴外光建」という。)は、平成七年二月三日、被告イチケンが訴外光建に右造成工事を下請けさせる旨の請負契約を締結した(弁論の全趣旨)。

(二) 原告と被告イチケンは、同年三月二四日、原告が施主となって企画建設するウェルシータウン東久留米内の土地付き分譲住宅九戸(A号棟ないしI号棟)について、原告が同被告にその販売を委託する旨の販売委託契約を締結した(以下、右契約を「本件販売委託契約」という。)。

本件販売委託契約において、次の点が合意された。

(1)  被告イチケンは、買主から原告を代理して受領した分譲代金等を五日以内に原告に引き渡す。

(2)  原告は、被告イチケンが原告の代理人として右土地付き分譲住宅を販売することにより、同被告に対し、報酬として、販売物件の本体価格の四パーセント相当額及びそれに係る消費税額を支払う。

(三) 原告と被告イチケンは、同年五月二五日、原告が同被告に対しA号棟、B号棟、C号棟、D号棟、F号棟、G号棟及びI号棟の七棟の建築工事も請け負わせる旨の請負契約を締結した。

右請負契約においては、請負代金は消費税込みで八八四二万七五六〇円とし、それを契約締結時に一七一七万円、同年六月の中間検査完了時に一七一七万円、同年九月の完成検査完了時に三四三四万円、完成後三か月経過した時点に一九七四万七五六〇円と分割して支払う旨合意された(甲一一の一、乙二)。

また、原告と被告イチケンは、同年七月五日、原告が同被告に対しH号棟の建築工事を請け負わせる旨の請負契約を締結した。

右請負契約においては、請負代金は消費税込みで一八二二万〇一八五円とし、それを契約締結時に三五三万円、同年八月の中間検査完了時に三五三万円、同年一一月の完成検査完了時に七〇七万円、完成後三か月経過した時点に四〇九万〇一八五円と分割して支払う旨合意された(以下、右請負契約及び同年五月二五日締結の前記請負契約を併せて「本件各建築請負契約」という。)(甲一一の二)。

そして、被告イチケンと訴外光建は、本件各建築請負契約の締結直後ころ、被告イチケンが訴外光建に右各建物の建築を下請けさせる旨の請負契約をそれぞれ締結した。

なお、E号棟については、原告が直接訴外光建に対し建築を請け負わせる旨の請負契約を締結している。

(四) 原告、被告イチケン及び訴外光建は、同年九月二〇日、本件各建築請負契約に基づく請負人たる地位を被告イチケンから訴外光建に承継させる旨の工事請負承継契約を締結した(以下、右契約を「本件工事請負承継契約」という。)。

なお、本件工事請負承継契約においては、本件業務委託契約に基づくウェルシータウン東久留米の造成工事代金のうち、いまだ工事が着手されていない境界ブロック工事(以下「本件境界ブロック工事」という。)の工事代金一〇三万円(消費税を含む。以下、同様である。)については、原告が被告イチケンの承認を得た上で訴外光建に支払う旨の合意もされた。

(五) また、原告と被告イチケンは、右同日、覚書を締結し、本件販売委託契約を解除し、被告イチケンが販売代理権を喪失することを合意するとともに、右契約に基づく販売代理手数料は、既に契約が完了した二棟(C号棟及びH号棟)の本体価格の三パーセント相当額及びそれに係る消費税額とする旨合意した(以下、右覚書を「本件覚書」という。)。

3  (被告イチケンによる住宅販売)

被告イチケンは、同年八月八日、本件販売委託契約に基づきH号棟を訴外津々見雄一及び同津々見晴子(以下、右両人を併せて「訴外津々見ら」という。)に販売し、同人らから売買代金六〇〇万円(内金である。以下、同様である。)を受け取ったが、原告に対し、その引渡をしなかった。

他方、原告は、被告イチケンが本件販売委託契約に基づき原告の代理人としてC号棟(本体価格五八〇〇万円)及びH号棟(本体価格五七五〇万円)を販売したにもかかわらず、同被告に対し、販売代理手数料として八九万七三〇〇円を支払ったのみで、その余の支払をしていない。

4  (訴外光建による境界ブロック工事の完了及び原告の右工事代金の支払)

原告、被告イチケン及び訴外光建が本件工事請負承継契約を締結した後、訴外光建が本件境界ブロック工事を行った。

そして、原告は、平成八年四月二六日、被告イチケンの承認を得ないまま、訴外光建に対し右工事代金一〇三万円を支払った。

なお、原告は、被告イチケンに対し右工事代金を支払っていない。

5  (原告の認証申出と被告協会による拒否)

原告は、平成八年九月一〇日、被告協会に対し、被告イチケンから右3の売買代金六〇〇万円の引渡がないとして、右六〇〇万円について宅地建物取引業法六四条の八第二項による認証の申出をしたが、同被告は、平成一〇年一月二八日、「宅地建物取引によって生じた債権の立証が困難である」との理由で認証を拒否した(以下、右認証申出を「本件認証申出」という。)(原告と被告イチケン間において甲四の二)。

二  原告の主張

1  原告の被告イチケンに対する本訴請求債権について

(一) 売買代金引渡請求権及び被告イチケンの債務不履行に基づく損害賠償請求権

被告イチケンは、平成七年八月八日、本件販売委託契約に基づきH号棟を訴外津々見らに販売し、同人らから売買代金六〇〇万円を受け取ったにもかかわらず、原告に対し、その引渡をしなかった。

そのため、原告は、被告協会に対し、本件認証申出を行い、東京弁護士会所属の滝田博弁護士に対し、その手続費用として八二万四〇〇〇円を支払い、また、本件訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、裁判費用及び着手金として五〇万円を支払った。

したがって、原告は、被告イチケンに対し、本件販売委託契約に基づき訴外津々見らから受領した売買代金六〇〇万円の引渡請求権を有するとともに、被告イチケンの債務不履行に基づき、右弁護士費用の損害賠償請求権を有する。

(二) 建築部材の交換等に要した費用の損害賠償請求権

被告イチケンは、下請であった訴外光建に対し請負代金を支払わなかったため、建築部材がしばらくの間放置されたままとなり、部材の交換(プレーナー掛け)等の費用負担が生じた。

右部材交換等の費用は、消費税込みで一四九万六五九〇円である。

よって、原告は、被告イチケンに対し、右損害の賠償請求権がある。

(三) 防犯灯の不設置に基づく損害賠償請求権

被告イチケンは、本件業務委託契約に基づき既に受領済みの開発許認可費・造成工事代金に含まれる防犯灯の設置工事をしなかったため、原告は、訴外光建に対し、右設置工事の費用を追加費用として負担した。

右防犯灯設置工事費用は、消費税込みで三万六〇五〇円である。

よって、原告は、被告イチケンに対し、右損害の賠償請求権がある。

(四) 近隣住民に対する説明不足に基づく損害賠償請求権

被告イチケンは、H号棟建築請負時、近隣既存道路を利用しての間取りプランが変更されたことを近隣住民に対し十分に説明すべきであったにもかかわらず、被告イチケンが十分に説明をしなかったために、近隣住民から不満が生じ、そのため近隣住民を説得するのに時間がかかり、その間近隣住民感情を考慮してH号棟の建築計画が遅延した。

そのため、原告は、H号棟の購入者である訴外津々見らに対し、二か月分の家賃三九万六〇〇〇円を負担した。

よって、原告は、被告イチケンに対し、右損害の賠償請求権がある。

(五) 設計料及び建築確認申請代金の二重払いに基づく損害賠償請求権

被告イチケンは、本件各建築請負契約に基づき原告から受け取った請負代金の中に設計料及び建築確認申請代金合計一三三万九〇〇〇円が含まれていたにもかかわらず、下請である訴外光建に右金員を支払わなかったため、原告は、訴外光建に対し右金員の二重払いを余儀なくされた。

よって、原告は、被告イチケンに対し、右損害の賠償請求権がある。

2  被告らの相殺の抗弁について

(一) 本件境界ブロック工事代金の支払請求権について

本件境界ブロック工事は、本件工事請負承継契約により請負人たる地位を被告イチケンから承継した訴外光建が行っており、原告は、訴外光建に対し、右工事代金全額を支払済みである。

確かに本件工事請負承継契約では、原告が右工事代金を被告イチケンの承認を得た上で訴外光建に支払う旨合意されているが、右合意は、被告イチケンが工事を完了した場合及び訴外光建が工事を完成させない場合の被告イチケンの工事代金請求権を確保するためのものであり、被告イチケンが工事をせず、かつ下請である訴外光建が全工事を完了した後も被告イチケンが訴外光建に工事代金を支払う見込みがない状況下においては、被告イチケンの工事代金請求権を確保する必要はなく、原告の訴外光建に対する支払につき被告イチケンの承認は要しないと解すべきである。

したがって、被告イチケンには、本件境界ブロック工事の工事代金一〇三万円の支払請求権はない。

(二) 販売代理手数料請求権について

原告と被告イチケンは、本件販売委託契約により被告イチケンの販売代理手数料を販売物件の本体価格の四パーセント相当額とする旨合意したが、その後、本件覚書を取り交わし、本件販売委託契約を解除するとともに、被告イチケンのC号棟及びH号棟についての販売代理手数料を本体価格の三パーセント相当額に変更した。

右三パーセントは、被告イチケンが仲介義務全てを履行することを前提に定めた数値であるが、その後被告イチケンは引渡義務(登記事務の仲介、住宅ローンの申込み取次、入居者点検の二度にわたる立会、電気ガス水道の供給開始手続等)を履行しなかったため、原告が自ら行った。

したがって、被告イチケンは仲介義務の一部しか履行していないのであるから、受領し得る手数料は右三パーセントの半額の一・五パーセントと解するのが妥当であり、本件販売委託契約に基づく販売代理手数料の未払額は、C号棟及びH号棟の税抜き売買価格の一・五パーセントから支払済みの八九万七三〇〇円を差し引いた八三万五二〇〇円である。

なお、被告らは、被告イチケンの本件販売委託契約に基づく販売代理権は本件覚書の締結により消滅しており、右時点で未了であった諸手続を被告イチケンがなすことはできないから、手数料を三パーセントから一・五パーセントに減額する理由がない旨主張するが、本件覚書において、解除規定を受けて、販売代理手数料を「売買契約の翌月に一・五%、引渡しの翌月に一・五%支払う」旨規定している以上、右解除により被告イチケンの引渡義務が消滅するものではなく、解除後も存続すると解するのが相当である。

(三) 原告の本件工事請負承継契約の締結強要に基づく損害賠償請求権について

原告が被告イチケン及び訴外光建と本件工事請負承継契約を締結し、本件各建築請負契約に基づく請負人たる地位を被告イチケンから訴外光建に変更したのは、E号棟を除く八戸の建築工事について、原告が支払った工事代金が被告イチケンからその下請である訴外光建に支払われないとの訴外光建からの苦情があり、このままでは工事が進行しないため、やむを得ず行ったものである。

また、原告が被告イチケンとの間で本件覚書を締結し、本件販売委託契約を解除したのは、被告イチケンがウェルシータウン東久留米の土地付き分譲住宅を完売すると明言していたにもかかわらず販売できたのはC号棟及びH号棟の二棟のみで深刻な販売不振状況下にあったため、原告はもはや被告イチケンに販売を任せておくことができず、販売については自社販売とするのが妥当と考えたことや、被告イチケンが平成七年八月八日にH号棟を訴外津々見らに販売し、同人らから売買代金六〇〇万円を受領したにもかかわらず、本件販売委託契約に違反し、右六〇〇万円を五日以内に原告に引き渡さなかったことに不信感を抱いたからである。

このように、本件工事請負承継契約及び本件覚書の締結は、いずれも正当な理由に基づき任意になされた有効なものであり、原告が被告イチケンに強要したものではない。

したがって、被告イチケンには不法行為に基づく損害賠償請求権はない。

なお、被告イチケンは、原告の中間金支払拒否が訴外光建に対する被告イチケンの代金未払の原因となり、工事の進行に支障を生じたと主張するが、被告イチケンは、訴外光建に対し、本件工事の契約時の着手金一九六二万円のうち一八〇〇万円しか支払っておらず、造成工事についても三〇〇万円の未払金があり、さらに他の現場でも二四〇〇万円の未払金があったことから、訴外光建は、平成七年八月二一日の時点で、支払うべき請負代金の支払をしない被告イチケンと下請関係を継続する意思を有していなかった。したがって、原告の中間金支払拒否と訴外光建に対する代金未払及び工事の進行に支障が生じたこととは一切因果関係がない。

三  被告らの主張

1  原告の被告イチケンに対する本訴請求債権について

(一) 売買代金引渡請求権及び被告イチケンの債務不履行に基づく損害賠償請求権について

被告イチケンが平成七年八月八日に本件販売委託契約に基づきH号棟を訴外津々見らに販売し、同人らから売買代金六〇〇万円を受け取ったこと、被告イチケンが原告に対し右売買代金の引渡をしていないことは認める。

原告が本件認証申出及び本訴提起・追行のために合計一三二万四〇〇〇円の弁護士費用を支出したことは不知、右支出額を被告イチケンが賠償しなければならない旨の主張は争う。

なお、弁護士費用が債務不履行に基づく損害賠償の対象となり得ることは確かであるが、これは、債務不履行の事実が存在し、かつ債務不履行と弁護士への委任との間に相当因果関係がある場合に限られる。本件では、原告の右六〇〇万円の請求に対し、被告イチケンは後記2のとおり反対債権を有していたのであるから、同被告が原告に対して六〇〇万円の引渡をしないことに相当の理由があり、債務不履行を構成するものではないから、弁護士費用について損害賠償義務を負うことはない。

(二) 建築部材の交換等に要した費用の損害賠償請求権について

原告は、被告イチケンに対し、平成七年七月上旬ころ、ウェルシータウン東久留米の土地付き分譲住宅の販売が不振であることを理由に、A号棟、B号棟及びI号棟の三棟の建物建築を保留するよう一方的に要求し、工事を行っても代金を支払わないとの態度をとるに至った。しかし、当時、被告イチケンは、当初の契約に従って工事を進めており、建築予定の建物のうち最後に契約したH号棟を除く七棟分の建築部材を購入の上、各種加工を終えるところまで作業が進んでいた。したがって、建築部材の保管費用・交換費用を要することになったのは、原告の指示が原因であるから、それにより何らかの費用負担を生ずることになったとしても、それは原告が負担すべきものであり、被告イチケンには責任はない。

なお、原告の主張する損害賠償請求は本件各建築請負契約の不履行を理由とするものであるが、右各契約における被告イチケンの契約上の地位は本件工事請負承継契約によって訴外光建に承継され、原告と被告イチケンとの金銭関係は「甲(原告)・乙(被告イチケン)間での代金の授受等については既に支払済みの金三〇二九万四九〇〇円をもって一切清算したものとし、今後いかなる名目たるとを問わず、乙(被告イチケン)及び丙(訴外光建)は甲(原告)に対し金銭の支払いその他何等の請求をもしないものとする。」との清算条項によって解決されているから、右契約が有効である限り、本件各建築請負契約に伴う金銭関係はすべて右清算条項によって解決済みであり、この点においても、原告の請求は成り立つ余地がない。

(三) 防犯灯の不設置に基づく損害賠償請求権について

被告イチケンが本件業務委託契約に基づき既に受領済みの開発許認可費・造成工事代金に防犯灯の設置費用が含まれていること、被告イチケンが右防犯灯の設置工事をしなかったことは認める。

(四) 近隣住民に対する説明不足に基づく損害賠償請求権について

原告は、被告イチケンがH号棟の間取り変更を近隣住民に説明しなかったことを問題としているが、一般に、近隣周りは、建物建築などの工事を行う場合、新たに建物ができることへの近隣住民の不安を解消し、また、工事に伴う車両の出入り、騒音に対する近隣住民の理解を得る目的の下、予め近隣住民宅を回って、工事の内容、時期等を説明して円滑な工事遂行を図るべく行われるものであるから、説明事項も工事内容、工事期間等が中心であって、建築する建物の間取り変更などの細かい事柄までは伝えないのが通例であり、被告イチケンもH号棟の間取り変更についてまで近隣住民に説明する義務を負うものではない。

また、H号棟の間取り変更に伴って近隣住民が不満を述べ始めたのは平成七年一〇月ないし一一月であるが、仮に本件工事請負承継契約が有効であるとすれば、本件各建築請負契約に基づく請負人たる地位は被告イチケンから訴外光建に承継されているから、被告イチケンは、近隣住民の右不満に対応して近隣住民に右間取り変更について説明すべき義務はない。

なお、前記(二)のとおり、本件工事請負承継契約が有効である限り、本件各建築請負契約に伴う金銭関係はすべて解決済みであるから、この点においても、原告の請求は成り立つ余地がない。

(五) 設計料及び建築確認申請代金の二重払に基づく損害賠償請求権について

ウェルシータウン東久留米の設計・建築確認手続は沙羅設計が行っていたが、建築請負と設計・建築確認申請業務は全く別であり、被告イチケンが原告から受け取った請負代金の中に設計料及び建築確認申請代金は含まれていないし、本件各建築請負契約において、原告と被告イチケンが設計料及び建築確認申請代金を被告イチケンが負担する旨の合意をしたこともない。

なお、前記(二)のとおり、本件工事請負承継契約が有効である限り、本件各建築請負契約に伴う金銭関係はすべて解決済みであるから、この点においても、原告の請求は成り立つ余地がない。

2  相殺の抗弁

(一) 本件境界ブロック工事代金の支払請求権

原告は、被告イチケンに対し、本件業務委託契約において、被告イチケンの業務に対する報酬及び造成工事代金として一九七五万円及び消費税五九万二五〇〇円を支払う旨約したにもかかわらず、そのうちの本件境界ブロック工事代金一〇三万円の支払をしていない。

したがって、被告イチケンは、原告に対し、本件業務委託契約に基づき右工事代金一〇三万円の支払請求権を有する。

なお、原告は、本件境界ブロック工事は、本件工事請負承継契約により請負人たる地位を被告イチケンから承継した訴外光建が行っており、原告は、訴外光建に対し、右工事代金全額を支払済みであるところ、右契約においては、原告が右工事代金を被告イチケンの承諾を得た上で訴外光建に支払う旨合意されているものの、本件の場合は原告の訴外光建に対する支払につき被告イチケンの承認は要しないから、被告イチケンは原告に対し本件境界ブロック工事代金の支払請求権はない旨主張する。

しかしながら、被告イチケンが原告と本件工事請負承継契約を締結した経緯は後記(三)のとおりであり、原告の強迫によるものであるから、被告イチケンは、平成一一年七月一九日の本件弁論準備手続期日においてその意思表示を取り消す旨の意思表示をした。したがって、原告の右主張は、この点で理由がない。

また、仮に本件工事請負承継契約の効力が認められるとしても、右契約は、本件各建築請負契約の権利関係を被告イチケンから訴外光建に承継させる内容であって、本件業務委託契約の権利関係を被告イチケンから訴外光建に承継させるものではないから、右契約に基づく原告の被告イチケンに対する本件境界ブロック工事の工事代金の支払義務は何ら影響を受けるものではない。もっとも、本件工事請負承継契約においては、原告が被告イチケンの承認を得た上で本件境界ブロック工事の工事代金を訴外光建に支払う旨の合意もされているが、右合意の趣旨は、本来であれば原告から被告イチケンに支払われ、さらに被告イチケンから訴外光建に支払われるべき工事代金について、被告イチケンが承諾すれば原告から訴外光建に直接支払うことができるとするものであって、被告イチケンの承認を条件とした代金支払方法の合意にすぎないから、右合意によっても原告の被告イチケンに対する工事代金支払義務は何ら影響を受けるものではない。

したがって、原告の右主張は、失当である。

(二) 販売代理手数料請求権

原告は、被告イチケンに対し、本件販売委託契約において、被告イチケンが原告の代理人としてウェルシータウン東久留米の土地付き分譲住宅を販売することにより、販売代理手数料として、販売物件の本体価格の四パーセント相当額及び消費税額を支払うことを約した。

被告イチケンは、右販売物件九戸中二戸(C号棟(本体価格五八〇〇万円)及びH号棟(本体価格五七五〇万円))について、原告の代理人として売買契約を成立させたので、原告に対し、支払済みの八九万七三〇〇円を控除した三八六万一三〇〇円の販売代理手数料請求権を有している。

なお、原告は本件覚書の締結により販売代理手数料を三パーセントに変更し、しかも、被告イチケンは仲介義務の一部しか履行していないから、受領し得る販売代理手数料は右三パーセントの半額の一・五パーセントと解するのが妥当である旨主張する。

しかしながら、被告イチケンが原告と本件覚書を締結した経緯は後記(三)のとおりであり、原告の強迫によるものであるから、被告イチケンは、平成一一年七月一九日の本件弁論準備手続期日においてその意思表示を取り消す旨の意思表示をした。したがって、原告の右主張は、この点で理由がない。

また、仮に本件覚書による減額が認められたとしても、被告イチケンの販売代理権は本件覚書の締結により消滅しており、右時点で未了であった諸手続を被告イチケンがなすことはできないから、被告イチケンが右時点以降の手続をしないことをもって手数料を三パーセントから一・五パーセントに減額する理由はない。

したがって、原告の右主張は、失当である。

(三) 原告の本件工事請負承継契約の締結強要に基づく損害賠償請求権

(1)  平成七年七月下旬ころ、被告イチケンがC号棟、D号棟、F号棟及びG号棟の中間検査を了したことから、原告は、被告イチケンに対し、それらの建物の中間金の支払をしなければならなかったにもかかわらず、その支払をしなかった。

右中間検査がなされたころ、被告イチケンもまた下請である訴外光建から上棟時に支払うべき中間金の支払を請求されていたところ、その支払原資には原告からの中間金を予定していたが、原告が右中間金を全く支払わなかったため、被告イチケンは、訴外光建に対する中間金の支払に窮することになった。

このような中、原告は、同年八月末ころ、被告イチケンの窮状を利用し、被告イチケンを請負契約関係から排除するべく画策し、本件工事請負承継契約及び本件覚書の締結を要求した。

被告イチケンは、原告が中間金の支払をしないため、訴外光建に対する中間金の支払に窮しており、かといって訴外光建への支払をしなければ同社が工事を中断するおそれがあり、また、工事中断となれば、既に販売済みの二棟の顧客に迷惑がかかり、これが被告イチケンの信用に影響するおそれがあった。そのため、被告イチケンは、やむを得ず、本件工事請負承継契約及び本件覚書を締結した。

原告の右行為は、被告イチケンの窮状を利用して、被告イチケンにとって何ら義務のない請負契約関係からの離脱を強要したもので、不法行為を構成する。

(2)  原告の本件工事請負承継契約の締結の強要により、被告イチケンは、原告から請け負った工事代金と訴外光建に対して請け負わせた工事代金の差額に当たる利益を失った。

被告イチケンが原告から請け負った工事代金総額は一億〇六六四万七七四五円であり、被告イチケンが訴外光建に請け負わせた工事代金総額は一億〇一三〇万八五〇二円であるから、右差額五三三万九二四三円が被告イチケンの損害である。

(3)  よって、被告イチケンは、原告に対し、不法行為に基づき五三三万九二四三円の損害賠償請求権を有する。

(四) 被告イチケンは、平成一〇年九月二八日の本件口頭弁論期日において、被告イチケンの原告に対する前記(一)ないし(三)の債権をもって、原告の本訴請求債権のうち本件販売委託契約に基づく六〇〇万円の売買代金の引渡請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  争点

1  原告の被告イチケンに対する本訴請求債権について

(一) 売買代金引渡請求権の存否及び被告イチケンの債務不履行に基づく損害賠償請求権の範囲

(二) 建築部材の交換等に要した費用の損害賠償請求権の存否

(三) 防犯灯の不設置に基づく損害賠償請求権の存否

(四) 近隣住民に対する説明不足に基づく損害賠償請求権の存否

(五) 設計料及び建築確認申請代金の二重払いに基づく損害賠償請求権の存否

2  被告らの相殺の抗弁について

(一) 本件境界ブロック工事代金の支払請求権の存否

(二) 販売代理手数料請求権の範囲

(三) 原告の本件工事請負承継契約の締結強要に基づく損害賠償請求権の存否

第三当裁判所の判断

一  原告の本訴請求債権について

1  売買代金引渡請求権及び被告イチケンの債務不履行に基づく損害賠償請求権について(争点1(一))

本件販売委託契約により、被告イチケンが原告に対し買主から原告を代理して受領した分譲代金等を五日以内に引き渡すことを約したこと、被告イチケンが平成七年八月八日に右契約に基づきH号棟を訴外津々見らに販売し、同人らから売買代金六〇〇万円を受け取ったこと、被告イチケンが原告に対し右売買代金の引渡をしていないことは、当事者間に争いがない。

したがって、原告は、被告イチケンに対し、本件販売委託契約に基づき右売買代金六〇〇万円の引渡請求権を有するとともに、被告イチケンの債務不履行に基づき、右受領の日の翌日から五日を経過した同月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の損害賠償請求権を有する。

なお、原告は、被告イチケンが右売買代金の引渡をしなかったことから、本件認証申出及び本訴提起・追行のために合計一三二万四〇〇〇円の弁護士費用を支出したとして、その損害賠償を請求しているが、債権者は、金銭債務を目的とする債務の債務者が当該債務の履行を遅滞した場合、特段の事情のない限り、債務者に対し、その賠償を請求するために要した弁護士費用を請求することはできないと解するのが相当であり、本件においては、右特段の事情の主張もなければ、それを認めるに足りる証拠もないから、原告が被告イチケンに対し、右弁護士費用の賠償を請求することはできないというべきである。

2  建築部材の交換等に要した費用の損害賠償請求権について(争点1(二))

原告は、被告イチケンが下請であった訴外光建に対し請負代金を支払わなかったため、建築部材がしばらくの間放置されたままとなり、部材の交換(プレーナー掛け)等の費用負担が生じた旨主張する。

しかしながら、証拠(乙九、証人池田伸二、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成七年六月八日ころ、被告イチケンに対し、ウェルシータウン東久留米の土地付き分譲住宅の販売が不振であることを理由に、A号棟、B号棟及びI号棟の三棟の建物の建築を中断するよう要求したこと、その当時、被告イチケンから右各建物の建築を下請けしていた訴外光建が既に右各建物の建築部材を購入した上、各種加工を終えるところまで作業を進めていたことが認められるのであって、仮に右各建物の建築の中断により建築部材の交換等の費用が生じたとしても、それは原告の右要求に原因があるというべきであるから、原告は、被告イチケンに対し、右費用の賠償を請求することはできない。

3  防犯灯の不設置に基づく損害賠償請求権について(争点1(三))

被告イチケンが本件業務委託契約に基づき既に受領済みの開発許認可費・造成工事代金に含まれる防犯灯の設置工事をしなかったことは当事者間に争いがなく、証拠(甲一五の一ないし四)及び弁論の全趣旨によれば、訴外光建が右防犯灯の設置工事をし、原告が訴外光建に対し右設置費用として消費税込みで三万六〇五〇円を支払ったことが認められる。

したがって、原告は、被告イチケンに対し、本件業務委託契約の債務不履行に基づき三万六〇五〇円及びこれに対する原告の平成一一年二月二四日付け準備書面送達の日の翌日である平成一一年二月二五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の損害賠償請求権がある。

4  近隣住民に対する説明不足に基づく損害賠償請求権について(争点1(四))

原告は、被告イチケンが、H号棟建築請負時、近隣既存道路を利用しての間取りプランを近隣住民に対し十分に説明すべきところ、説明が不足したため工期が遅れ、購入者に対する引渡が遅延した旨主張する。

しかながら、原告及び被告イチケン間の本件各建築請負契約に係る契約書(甲一一の一、二)には、建物建築に伴う近隣住民に対する説明義務を定めた規定が一切ない。

もっとも、証拠(証人池田伸二)及び弁論の全趣旨によれば、一般に、建物の建築を請け負った者は当該建物の間取りが変更された場合にその旨を近隣住民に説明することは必ずしもないが、右間取り変更によって近隣住民が不満を述べた場合には、その時点で請負人が近隣住民に間取り変更について説明するのが建設業界の常識であることが認められ、本件各建築請負契約においても右建設業界の常識に従い被告イチケンが近隣住民に対し説明義務を負うとの合意があったと解する余地もあるが、証拠(甲一八、一九、証人池田伸二)によれば、H号棟の間取り変更に伴って近隣住民が不満を述べ始めたのは平成七年一〇月であることが認められ、右時点では既に本件工事請負承継契約により本件各建築請負契約に基づく請負人たる地位は被告イチケンから訴外光建に承継されていたのであるから、被告イチケンは、H号棟の間取り変更について近隣住民に説明する義務を負っていなかったというべきである。

したがって、原告の主張は、失当である。

5  設計料及び建築確認申請代金の二重払いに基づく損害賠償請求権について(争点1(五))

原告は、被告イチケンが本件各建築請負契約に基づき原告から受け取った請負代金の中に設計料及び建築確認申請代金合計一三三万九〇〇〇円が含まれていたにもかかわらず、同被告が下請である訴外光建に右金員を支払わなかったため、原告が訴外光建に対し右金員の二重払いを余儀なくされたとして、被告イチケンに対し、その損害賠償を求めている。

しかしながら、本件各建築請負契約に係る契約書(甲一一の一、二)には「ウェルシータウン東久留米新築工事・・・の施工について、次の条項と添付の工事請負契約約款、工事費内訳明細書、設計図に基づいて、工事請負契約を結ぶ。」とあり、既に設計書が作成されていることを前提に契約が締結されていることは明らかである。右契約書が引用する「工事請負契約約款」(甲二〇)の第一条二項においても同様である。また、右契約書には、請負代金の中に設計料及び建築確認申請代金が含まれている旨の記載も、それらを被告イチケンが負担する旨の記載もなく、また、甲二五、二六の見積書は、その金額が一致することから右契約書が引用する「工事費内訳明細書」であると思われるが、右見積書にもかかる記載はない(むしろ、右見積書においては、各建物の見積額が建坪面積に坪単価を乗じていることからすると、純粋に建物の建築費だけを見積もっており、設計料及び建築確認申請代金が含まれていないことが推認されるところである。)。そして、他に、本件各建築請負契約に基づく請負代金の中に設計料及び建築確認申請代金が含まれていること、あるいは、原告と被告イチケンとの間で被告イチケンがそれらの費用を負担する旨の合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の主張は、失当である。

二  被告らの相殺の抗弁について

1  本件境界ブロック工事代金の支払請求権について(争点2(一))

原告が被告イチケンに対し本件境界ブロック工事代金一〇三万円を支払っていないこと、右工事は右契約締結後訴外光建が実施し、原告が訴外光建に右工事代金を支払ったことは、当事者間に争いがない。

ところで、前記「前提事実」のとおり、原告は、平成六年一二月一三日、被告イチケンに対し、ウェルシータウン東久留米の造成工事等の業務を委託し、被告イチケンは、平成七年二月三日、訴外光建に対し、右業務のうち造成工事を下請している。その後、原告と被告イチケンは、本件各建築請負契約を締結し、さらにその後、本件工事請負承継契約を締結しているが、右契約によって被告イチケンから訴外光建に承継されたのは、本件各建築請負契約に基づく請負人たる地位であって、本件業務委託契約に基づく受託者たる地位は訴外光建に承継されておらず、他に本件業務委託契約が解除され、あるいは、右契約に基づく受託者たる地位が被告イチケンから訴外光建に承継されたことを窺わせる証拠はない。したがって、原告、被告イチケン及び訴外光建が本件工事請負承継契約を締結した際にも、原告及び被告イチケン間の本件業務委託契約は効力を維持していたものと解される(原被告双方の主張も、これを前提としている。)。

そこで、被告イチケンが原告に対し本件境界ブロック工事代金の支払請求権を有するか否かについて検討する。

本件工事請負承継契約において、本件業務委託契約に基づくウェルシータウン東久留米の造成工事代金のうち、いまだ工事が着手されていない本件境界ブロック工事の工事代金一〇三万円については、原告が被告イチケンの承認を得た上で訴外光建に支払う旨の合意がされていることは当事者間に争いがないところ、右合意の内容及び当時被告イチケンと訴外光建との間で本件建物の下請代金その他の代金の未払問題があったこと(甲一三、一四、証人池田伸二)からすれば、右合意は、訴外光建が右工事を実施した場合、本来であれば工事代金が原告から被告イチケンに支払われ、さらに被告イチケンから訴外光建に支払われるべきものであるところ、訴外光建が右工事を完了した場合の支払関係を簡素化するとともに、訴外光建の工事代金の回収を確実なものとし、併せて、原告から訴外光建への工事代金の支払に被告イチケンの承認を係らせることによって、なお本件業務委託契約に基づく受託者たる地位を有していた被告イチケン自身が右工事を完了した場合、あるいは、訴外光建が工事を完成させないため被告イチケンが他の業者に下請して右工事を完成させた場合の被告イチケンの工事代金請求権を確保することを目的とした合意であると解するのが相当である。したがって、訴外光建が右工事を完了した以上、被告イチケンの工事代金請求権を確保する必要性はなく、原告が訴外光建に工事代金を支払うにつき被告イチケンの承認を得る必要はないものと解するのが相当である。

したがって、原告の訴外光建に対する工事代金の支払によって、原告及び被告イチケン間の工事代金の支払関係並びに被告イチケン及び訴外光建間の工事代金の支払関係は同時に決済されたというべきである。

なお、被告イチケンは、原告の強迫によって本件工事請負承継契約を締結したものであり、その後右意思表示を取り消した旨主張するが、後記3のとおり、被告イチケンが原告の強迫によって本件工事請負承継契約を締結したと認めることはできないから、被告イチケンの右主張は、失当である。

また、被告イチケンは、右合意の趣旨は、本来であれば原告から被告イチケンに支払われ、さらに被告イチケンから訴外光建に支払われるべき工事代金について、被告イチケンが承諾すれば原告から訴外光建に直接支払うことができるとするものであって、被告イチケンの承諾を条件とした代金支払方法の合意にすぎないから、右合意によっても原告の被告イチケンに対する工事代金支払義務は何ら影響を受けるものではない旨主張するが、右合意の趣旨は前記のとおりであるから、被告イチケンの右主張は採用することができない。

したがって、被告イチケンは、原告に対し、本件境界ブロック工事代金一〇三万円の支払請求権はない。

2  販売代理手数料請求権について(争点2(二))

本件販売委託契約において、原告が被告イチケンが原告の代理人として土地付き分譲住宅を販売することにより、同被告に対し、販売代理手数料として、販売物件の本体価格の四パーセント相当額及びそれに係る消費税額を支払うことを約したこと、被告イチケンが右契約に基づき原告の代理人としてC号棟(本体価格五八〇〇万円)及びH号棟(本体価格五七五〇万円)を販売したこと、その後、原告と被告イチケンが本件覚書により同被告の販売代理手数料をそれらの建物の本体価格の三パーセント相当額及びそれに係る消費税額に変更したことは、当事者間に争いがない。

したがって、被告イチケンのC号棟及びH号棟についての販売代理手数料の額は、それらの建物の本体価格の合計額一億一五五〇万円の三パーセント相当額である三四六万五〇〇〇円とそれに係る消費税一〇万三九五〇円の合計三五六万八九五〇円である。

この点につき、被告イチケンは、原告の強迫によって本件覚書を締結したものであり、その後右意思表示を取り消した旨主張するが、後記3のとおり、被告イチケンが原告の強迫によって本件覚書を締結したと認めることはできないから、被告イチケンの右主張は、失当である。

他方、原告は、本件覚書の三パーセント相当額は、被告イチケンが仲介義務全てを履行することを前提に定めた数値であるが、その後被告イチケンは引渡義務を履行していないから、受領し得る販売代理手数料は三パーセントの半額の一・五パーセントと解するのが妥当である旨主張するが、本件覚書により本件販売委託契約は解除されたものであり、これにより被告イチケンは本件販売委託契約に基づく義務を免れたのであるから、本件覚書で合意された三パーセントの手数料をさらに減額する理由はない(この点につき、原告は、本件覚書において、解除規定を受けて、販売代理手数料を「売買契約の翌月に一・五パーセント、引渡しの翌月に一・五パーセント支払う」旨規定している以上、右解除により被告イチケンの引渡義務が消滅するものではなく、解除後も存続すると解するのが相当である旨主張するが、本件販売委託契約が解除され、被告イチケンの販売代理権が消滅した以上、右契約に基づく被告イチケンの義務も同時に消滅したものと解するのが相当である。)から、原告の右主張もまた失当である。

したがって、被告イチケンは、原告に対し、支払済みの八九万七三〇〇円を控除した残金二六七万一六五〇円の販売代理手数料請求権を有している。

3  原告の本件工事請負承継契約の締結強要に基づく損害賠償請求権について(争点2(三))

被告イチケンは、原告が同被告を請負契約関係から排除すべく画策し、同被告の窮状を利用して本件工事請負承継契約及び本件覚書の締結を強要した旨主張する。

確かに、証拠(乙九、証人池田伸二、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告が被告イチケンに対し、販売不振を理由にA号棟、B号棟及びI号棟の建物の建築を中断するよう要求していながら、それらの中間検査が完了していないことを理由に既に中間検査の完了したC号棟、D号棟、F号棟及びG号棟の中間金の支払を拒絶したり、C号棟、D号棟、F号棟及びG号棟の中間金からA号棟、B号棟及びI号棟に係る着手金を控除して支払う旨述べるなどしたことが認められ、本件工事請負承継契約及び本件覚書の締結に至る過程で原告の交渉態度に強引な点があったことを否定することはできない。

しかしながら、他方において、証拠(甲一三、一四、証人池田伸二)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告イチケンとの間で中間金の支払を巡る紛争が生ずる前から被告イチケン及び訴外光建間で本件建物の下請代金その他の代金の未払問題があったこと、被告イチケンはウェルシータウン東久留米の分譲住宅の販売を委託されていたが、販売不振の状況であり、そのため原告が被告イチケンに三棟の建物の建築中断を要求するに至っていたことが認められ、さらに、被告イチケンが平成七年八月八日に訴外津々見らからH号棟の売買代金六〇〇万円を受領していながら、右売買代金を原告に引き渡さなかったこともあって、原告と被告イチケンとの信頼関係が失われていたことも否定できないところであって、原告が被告イチケンとの間の本件各建築請負契約及び本件販売委託契約の解消を考えたとしても、必ずしも不当であるとはいえない。

また、仮に、被告イチケンが主張するとおり、原告から被告イチケンに中間金の支払がないと、同被告が訴外光建に中間金の支払をすることができず、そのため訴外光建が工事を中断するおそれがあり、また、工事中断となれば、既に販売済みの二棟の顧客に迷惑がかかるおそれがあったとしても、本件の分譲住宅の売主はあくまでも原告であって、右のような事態になればそれによって大きなダメージを受けるのはむしろ原告自身なのであるから、原告が被告イチケンの窮状を利用して本件工事請負承継契約及び本件覚書の締結を強要したとはにわかに解し難く、反対趣旨の証人池田伸二の証言に照らしても、直ちに右事実を認めることはできない(また、被告イチケンが原告の強迫により本件工事請負承継契約及び本件覚書を締結したと認めることもできない。)。

したがって、原告の行為が不法行為を構成すると認めることはできない。

4  以上のとおりであり、被告イチケンは、原告に対し、二六七万一六五〇円の販売代理手数料請求権を有することが認められるが、その余の債権の存在を認めることはできない。

5  被告イチケンが、平成一〇年九月二八日の本件口頭弁論期日において、原告に対する反対債権をもって、原告の本訴請求債権のうち本件販売委託契約に基づく六〇〇万円の売買代金の引渡請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。

6  よって、被告らの相殺の抗弁は、被告イチケンの原告に対する二六七万一六五〇円の販売代理手数料請求権と原告の本訴請求債権のうち六〇〇万円の引渡請求権とを対当額で相殺する限度で理由がある。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求中、被告イチケンに対し、金三三六万四四〇〇円及び内金三三二万八三五〇円に対する平成七年八月一四日から、内金三万六〇五〇円に対する平成一一年二月二五日からそれぞれ支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告協会に対し、原告の本件認証申出につき、申出に係る債権額金六〇〇万円のうち金三三六万四四〇〇円について認証を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤繁)

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